2014年04月14日

そもそもなぜ山梨県民はワインを大切にすべきなのか?

甲州市塩山のキスヴィンワイナリーが初めてワインを出荷しました。

このワイナリーは、「おいしいワインが飲みたい・つくりたい」と願うぶどう栽培家の池川仁さんや荻原康弘さん(同ワイナリー社長)らが中心になってつくった「チーム・キスヴィン」が母体です。

チーム・キスヴィンはこれまで、醸造用ぶどう栽培の研究や実践や指導を継続して来ました。
そして、彼らがワイナリーに提供したぶどうからたくさんの上質なワインが生まれたり(シャトー酒折のキュベイケガワやキスヴィン甲州などが有名)、ワイナリーの若手栽培醸造家の多くが彼らの指導を受けてきたりしました。

生食用ぶどう農家がメインの山梨県では、多くの場合、ワイナリーの側からぶどう農家に対し、醸造用ぶどうの品質をお願いをしてきました。
しかしチーム・キスヴィンは、ぶどう農家の側からワイナリーに対し、醸造用に上質なぶどうを提供してワインの品質をお願いしてきたわけです。
私がこのチーム・キスヴィンの池川さんと荻原さんと出会ったのは、2006年から実施してきた「ワインフェス」の会場(甲府のフォーハーツカフェ)でした。お二人とも欠かさずこのイベントには参加してくれて、池川さんが「ぶどう畑でワインをつくる」という発想を語ってくれたのを覚えています。ちょうど私たちが「ワインツーリズム山梨」という団体を立ち上げた頃でした。

IMG_3019.jpg

私は地方の課題は「自立」だと思っています。
これまで地方は、行政もメディアも民間企業も、中央や大手を言われるものの「下請け」である時間が長く、すでに立ち行かなくなっている実態があるにも関わらず、いまだにその依存から脱することができていないのではないか。
地方が自らにプライドもって、そこにあるモノ、産業、人、文化、知恵、発想をもちよって、自ら「新しい価値」を発信してくべきでは。
これが「自立」の意味であり、私の問題意識です。

当然、多くの人がこのことには気づいています。
各県が推進している様々な分野の「ブランド化」は、この「自立」への方向だと理解しています。
様々な組織や団体が実施する地域活性化事業も、めざしているのはこの方向です。

ただ、現実的には、その試みが一時的なもので終わってしまいます。
私たちはそんな例を腐るほど見てきました。
では、なぜ一時的なもので終わるのか?
それは、お金が継続的に回らないからです。一時的には行政の補助金で運営できても、カネの切れ目が縁の切れ目。補助金をもらっているうちに、その後の自立的運営の準備ができないから、継続できないのです。残念ながら、掲げていた「新しい価値」まで降ろしてしまいます。

上記、チーム・キスヴィンおよびキスヴィンワイナリーの試みも、まさにこの地域活性化事業の一つです。

地元にぶどうの育つ風土とつくり手がいる。
そのぶどうからおいしいワインをつくるワイナリーがある。
そのワインを売る酒屋や提供する飲食店がある。
これらがおいしく、山梨の風土や景観、地域文化として魅力的であれば、全国から、世界から人が集まる。
そうすると地域の宿泊施設や旅行業者や、その魅力を発信する広告業者にまで効果は広がる。
発想は無限に広がり、新しいお土産品を開発する事業も出てくる。

これはまだまだ小さい分野での実践に過ぎませんが、実際に山梨県内で具体的に展開されていることです。
大都市では絶対にまねのできないことで、大量生産大量消費という従来の価値観からは得られない新しい「ローカル価値」が生まれています(つまり、大量生産大量消費の流れに乗ろうとすると、元も子もなくなる)。
他の地方には、なかなか具現化できていない事例です。

地域にお金と新たな価値観の流れを生むこのワイン産業は、「地方の自立」を具体的に示す一つの典型であり理想形だと、私は常に思っています。
ワイン産業は、他の分野や他の地域の地域活性化策のための絶好の見本になっているのです。

これが私の考える、「山梨県民が山梨のワインを大切にすべき理由」です。

笹本貴之
posted by 笹本貴之 at 01:27| 私の考えていること

2014年04月07日

大豪雪の後に思うこと(「災害を今後のために活かす」とは?)

2014年2月14日・15日の大豪雪以来、特に山梨県内の果樹のハウス栽培の被害への対応が課題になっています。

IMG_2947.jpg

これは4月5日の山梨日日新聞の一面記事ですが、山梨県などの支援策が紹介されました。
記事から引用します。
壊滅的な被害を受けたブドウに関しては既存の露地栽培ブドウをハウスで覆えば、来季から高値で取引される早期の出荷が見込めるという。従来の支援策ではハウス栽培は樹木の植え替え後に利益を得るまで5年程度かかるが、露地栽培からハウス栽培への転換を促すことで、被災農家の営農継続を後押しする。
ブドウ栽培用のハウスは、今回の大雪で8割程度が倒壊や損壊の被害を受けて、今シーズンの利益はありません。
それを補って、どうにか農業を継続してもらおう、という行政の意図です。
で、恐らく行政はこのような支援の方向で行くのでしょう。

確かに、短期的な対処という意味ではよく理解できます。
ただ、ここで大切なことは、このような対処だけで終わって本当にいいのか? ということです。
今回の大豪雪で見えてきた課題はこれだけではないはず。このような災害があったからこそ、一度、山梨県内の農業の方向性を長期的に見直すべきではないのか? と私は農業の素人ながらに思うのです。

やっぱり、ブドウ栽培にとって、「ハウスの露地化」ではなく、「露地のハウス化」は長期的にみて時代に逆行しているような気がしています。

今回のことで、思い当たる論点を私なり出してみました。

・ブドウ農家さんが高齢化している。
 ⇒ どうしたら安定的な収益を見込めるのか?

・ワインの消費は増えても、ワイン醸造用ブドウの生産量は落ちている。
 ⇒ どうしたら手間をかけず大量生産できる醸造用ブドウ(醸造用ブドウは露地栽培)の生産を増やせるのか?

・ブドウの景観を維持するのが難しい。
 ⇒ やはりハウスより露地栽培の方が景観にはよい。

・今後も考えられる異常気象でハウスはリスクがある。
 ⇒ 今回の大雪で、露地栽培ではほとんど被害はなかった。

・加温ハウスで大量に使う重油の価格は上がり続けている(災害時にはすぐに足りなくなる)。
 ⇒ 今後も重油に依存するビジネスモデルは持続可能なのか? 環境やブドウの付加価値という意味でもどうか?

・高く売れるという早期出荷の市場の将来性に疑問あり。
 ⇒ それよりも「地産地消」や「旬」という価値観にこそ、ローカル(地方)の活路があるのではないか?

私は、都合のよい論点ばかり並び立てているのでしょうか。
私は農業が専門ではなく、限られた知識の中で考えたに過ぎませんが、それでもこの山梨県というローカルのことを長期的に考えてみると、「露地のハウス化」という対処に疑問を持ちます。

――――――

私がここで申し上げたいのは、単に「ハウスの露地化」と「露地のハウス化」の賛否ではありません。
今回の未曾有の大豪雪による被害を受けて、私たちがいままで触れなかったり、タブーにしていたり、とりあえず先送りにしていたりしてきた課題のいくつかを根底から考え直してみるよい機会だということを言いたいのです。
その意味で、上記の記事にある県の支援策は、「果樹王国・山梨」をどうしたいのか? どのように生き残っていくのか? どんな価値観を発信していきたいのか? という根本的な課題を長期的に考えているようには思えません。場当たり的な対処にすら思えてしまいます。

ブドウ栽培に限らず、気象庁の警報発令のルール、県や各自治体の災害対策、各地域の消防・自治会・PTAなどの役割などなど、たくさんの準備不足とたくさんの存在価値が見えてきたわけです。
「災害を今後のために活かす」とは、その一つ一つの意義と限界を検証することだと思います。

笹本貴之
posted by 笹本貴之 at 18:30| 私の考えていること