2013年11月09日

ワインツーリズムの評価と課題

「ワインツーリズムやまなし」は、「2013年度グッドデザイン」で「地域づくりデザイン賞」を受賞しました。
この賞は4年越しの受賞でしょうか。主にデザインやプランという観点から、地域づくりに資する取り組みとして評価され、このデザインとプランを担当する合同会社セツゲツカ(代表:大木貴之)が脚光を浴びました。

私たちが挑戦しているこの「ワインツーリズムやまなし」という活動は、実は非常に分かりづらい仕組みでできています。分かりやすさ、というものが評価されるこの現代社会において、あえてその逆を志向しています。

それはなぜか?
私たちが良くしたい、誇りを持てるものにしたい、と思っている「地域」とは、そもそも分かりづらいものだからです。

では、どんな仕組みなのか?
私たちは2011年に活動の目的を定めました(私は既に運営から退いているので、現在でも有効かどうかは分かりませんが、「ワインツーリズムやまなし」少なくとも基礎を築いた時期の一つの指標でした)。
≪新しい旅のスタイルを提案する≫
ぶどうとワインに限らず、その産地にある独自のもの(風土・歴史・文化・生活)を全身で味わう旅のスタイルを広め、定着させる。

≪住民が「地域資源」を活用する≫
産地そのものの魅力は地域住民の財産(地域資源)であることを自覚し、それを自ら活用してより価値の高い地域をつくる。
一つ目の目的だけだったら、分かりやすかったでしょう。これはいまではたくさんの地域で実践されています。地域を舞台に開催されるイベント事の多くは、このことをめざしています。この場合、そのイベント事は出店数や参加者数によって評価されます。地域の商工会議所・商工会や商店会、その他団体が関わる場合が多いので、その強力な動員によって、出店は割り当てられ、当日が晴れてさえいれば参加者もすぐに万単位に膨れ上がります。

問題は二つ目の目的です。これがあるから「ワインツーリズムやまなし」のめざすところが分かりづらく、その仕組みや主体が分かりづらいのです。活動に参加するにも、当日何かで出店するにも、この「ワインツーリズムやまなし」の主旨というものの理解を求められてしまいます。参加者にも同様に「これは飲み放題のイベントではありません。ガイドブックとバスを活用しながらワインのある地域を散策し、その魅力を五感で楽しむ大人の遠足です。お気に入りのワインはご購入下さい」というように但し書きがやたらに多く、主旨に対する理解を求めるわけですから、どんなに晴れても数千人です。そのかわり、嵐でもその数は変わりません。
こんな具合ですから、どのようにして第三者が「ワインツーリズムやまなし」を評価したらよいのか、難しいのです。

しかし、2004年からひそかに始まっていた「ワインツーリズムやまなし」の動機は、非常に分かりやすいものでした。
それは、「山梨で誇りを持って生きたい!」ということでした。東京のまね事でも行政の下請けでもなく、山梨に既にあるもの(地域資源)の良さをまずは自分が知って、それを最大限に活用して、地域住民のチカラでこの山梨を何とかする!という想いでした。
そしてその「既にある良いもの」としてワインに目をつけ、ワインをワイナリーだけのもの、勝沼だけのもの、一部のワイン愛好家だけのものにしておくのではなく、地域住民みんなで共有して、利用して、一人一人の住民にとっても地域全体にとっても「より豊かな明日」を勝ち取ろうとして「ワインツーリズムやまなし」の活動に結び付いたのです(もちろん、これまで山梨のワインを価値あるモノにしていただいたワイナリーやぶどう農家、また行政その他の方々の並々ならぬご努力には最大限に敬意を表しています)。

※この経緯について、以下の資料が詳しいので、ご興味のある方はどうぞ。
 日経ビジネスオンライン「ワインから考える体験型ツーリズムは地方を救うか?」
 『サンドタウン 〜地域の自立〜』(徹熊書房)

従って、「ワインツーリズムやまなし」は、その理念から言って、だれか一人が主役ということを否定しています。
そもそも、「ワイン産地」という地域資源を地域住民が共有して、一人一人がそれぞれの専門分野、つまり「自分の事業」を展開できることをめざしたのが「ワインツーリズムやまなし」なのです。
その共有者は多彩で、どんどん増えて行きます。ワイナリーだけではなく、ぶどう農家、酒屋、飲食店、書店、味噌屋、パン屋、交通機関、旅行会社、広告代理店、印刷業、デザイナー、イラストレーター、プランナー、不動産、お寺、行政、農協、マスコミ、その他この仕組みを活用できると思う人は1次産業から3次産業まで。
当然、利害も考え方も社会的立場も、さまざまな人々が関わるわけですから、複雑です。面倒です。分かりづらいのです。でもこれが地域というものです。狭い範囲で、限られた資源を使って、利害関係が複雑で、立場も経済的階層もさまざまで、でもいつも近くで生活しているのが地域というやつです。「ワインツーリズムやまなし」は、ここに手を突っ込んでいるんだから、まあ大変です。

話を最初に戻すと、「ワインツーリズムやまなし」が始まってそろそろ10年経つときに、上記の共有者のごく一部、つまり「デザイン」と「プラン」の分野で「グッドデザイン賞」という評価をいただいたわけです。

ただし、これはたまたまこの分野において「グッドデザイン賞」という既存の評価機関があったからに過ぎません。
そんな分野は稀です。他の共有者の分野には、同じような評価機関はありません。

では、他の「ワインツーリズムやまなし」の共有者は、どのように評価されるのか?

これは市場が評価する、ということしかないと思うのです。つまり、ワイン産地を共有して活用することで、どれだけ自分の事業の価値が高まり、金銭的なプラスにつなけることができたか、ということに尽きるのだと思います。
そして私は、これが「ワインツーリズムやまなし」の最大の課題だと思っています。何よりもこの活動を運営する3社が、ビジネスとして自立することが大切であり、私はそのために運営主体から去りました(※詳しくは、「なぜワインツーリズムの運営から去ったのか?」に書きました)。

そして今年の「ワインツーリズムやまなし2013」では、私は11月9日の勝沼会場で、ペレットストーブ屋さんとして出店します。

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森林資源を原料にするペレットストーブの販売事業者として、ワイン産地を共有・活用して、私の事業の価値観を伝えるつもりです。

笹本貴之/笹本環境オフィス株式会社 代表取締役
posted by 笹本貴之 at 01:13| ワインツーリズム

2012年12月31日

なぜ「ワインツーリズム」の運営から去ったのか?

今年11月の「ワインツーリズムやまなし2012」では、たくさんの方々のご参加やご協力をいただき、本当にありがとうございました。
おかげ様でほぼ予定の定員に達し、収益も運営担当が事前に提示していた当初の損益分岐には達しているようです。

実は、私は今回の「ワインツーリズムやまなし2012」実施を前に、運営からは去りました。

なぜなら、「ワインツーリズム」の最大にして唯一の目的が、「事業として自立すること」であり、この目的を達成するために、私がいま去ることが最も有効なことだと、判断したからです。

―――
この目的は初回の大イベント「ワインツーリズム2008」を開催する以前から、2006年に雑誌『br』を執筆したり、フォーハーツカフェで「ワインフェス」を細々やっていたりしていた頃から、いやもっと前、2004年にまちづくりサロン“KOFU Pride”を立ち上げた頃からの、私の目的でした。

「どうせ山梨なんか・・・」
山梨の多くの若者が、山梨に住んでいることに誇りが持てないでいる中、「山梨にしか絶対にできないことをやって、誇りを取り戻してやる!」という想いで、「じゃあ何が武器になるんだ?」と遮二無二さがしたのが「ワインツーリズム」だったのです。
これは何を隠そう、私自身の山梨県民としての誇りを取り戻す作業でもありました。

当然、この活動は最初はお金になりません。またイベント事ばかり連発していても、何も変わりません。
この「ワインツーリズム」を活用して、関わる者が日常的に「食っていく」ことで、山梨という地方がこれから生き残っていくためのビジネスのモデルになろうとしてきました。

大イベント「ワインツーリズム2008」と「ワインツーリズム2009」では、行政から補助金をもらいました。
しかし、翌年はその補助金を拒絶して、事業として自立することを掲げましたが、一部の実行委員の「手弁当」の状態はなかなか脱せられずにいました。
その後、2011年に山梨県議会議員選挙に私が出馬したのも、なかなか事業化ができない、なかなか我々の真価が認められない、との焦燥感の中で、何とか突破口を見出したいという想いがあったのも事実です。

そして今年、5回目となる「ワインツーリズムやまなし2012」では、もう一度、事業化(ビジネス化)のことを議論しました。
(昨年末には「このまま手弁当では、次のワインツーリズムには関われない」という話も出ていました。)
その結果、旅行会社タビゼンを含む3社が今後の「ワインツーリズム」を自社の本業の一部として運営してゆくことが決まりました。

当然、私も運営に関わるという選択肢もありました。しかし、私は中途半端に関わらず、運営からは完全に去ることにしました。
その理由は二つ。それは本気度の問題と利益配分の問題です。

いまや私の本業は旅行事業でも制作事業でもありません。
前述の選挙を終え、失業し、新たに立ち上げた笹本環境オフィス(株)では、「地域の森林資源を活用する事業」を本業に選んだのです。
やはり本業に選んだ者が、本気で取り組むことが、最も大切なことであり、そうでなければ成功しないと思っています。

そして、事業化(ビジネス化)するということは、その利益の中で成り立つ仕組みをつくる、ということです。
本業にする者が利益配分を受けるのが当然であって、私のような立場の者は二の次です。
もし多少でも関わっていれば、当然口を出したくなるでしょう。手を出したくなるでしょう。しかし、私への利益配分はないのです。ということは、また私自身が「手弁当」をやることになるのです。そしてまた「手弁当からの脱出が大切」と反省会で言うことになります。

もうこの連鎖は絶対に辞めなければならない。
私はもう「手弁当」はやりません。
つまりそれは、補助金に代わる「手弁当への依存」をつくることになってしまいます。
本業として本気で「ワインツーリズム」事業に取り組む者たちが、正々堂々とその価値を市場に問えば良いのです。
ただそれだけのことですよ。認められれば継続して儲ければ良い。ダメなら退場するのみです。

いずれにしても、このように覚悟を決めた会社が現れたことを私は本当に嬉しいと思いますし、私の役割として私の実績だと思っています。

行政の補助金や、税金でつくった箱モノや、大企業の誘致や、業界の圧力や、イベント事や、ボランティアでは、社会は変わらないということは、既に火を見るよりも明らかです。
これら全て「依存」の構造です。
結局、地域の中小企業が、日常的に本業を発展させて、雇用を生み、税金を納めることでしか、社会は変わらないと信じています。
これが私たち地方に必要な「自立」の構造です。

最後に、この「補助金依存→ 手弁当依存→ ビジネス化・自立」という我々の考えを、汲み取ってくれた記事をご紹介します。

「産地の挑戦『ワインツーリズム』」山梨日日新聞
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(全文はこちら⇒ 2012-11-11_sannichi.pdf


「人気のワインツーリズム岐路」朝日新聞
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いまここで、強烈に反省するのは、「私自身が果たして自立していたのだろうか?」ということです。
「山梨の自立」を叫ぶ、私自身が、本当に自立していたのか?
やっぱり依存していたなあ。
家業に。家族に。仲間に。地域に。ワインツーリズムに。

今度はイベントでも、手弁当でもなく、次なる「ビジネス」で、このように新聞の特集を組んでもらえるようになりたいな。
その日まで、また地道な生業、地道な議論が続きます。
 
笹本貴之/笹本環境オフィス株式会社 代表取締役
posted by 笹本貴之 at 00:36| ワインツーリズム

2011年11月06日

今日は「ワインツーリズムやまなし2011」の二日目

今年で4回目の「ワインツーリズム」は、全4地区にバスルートを設定して実施します。


そしてその全体を統括する実行委員会とは別に、「ルートミーティング」と称した会合を各地区で個別に開き、これまで以上に地域の主体性と独自性が現れることを意図してきました。


だからこそ、私たちが共有して、常に立ち返って考えるべきコンセプトがあります。



ワインツーリズムの目的は、ワイン振興でも観光振興でもありません。
それは「ぶどうとワインだけでなく、その産地にある独自のもの、風土・歴史・文化・生活を全身で味わう旅のスタイルを定着させること」、そして「その産地の日常的な魅力が、住民にとっても来訪者にとっても貴重な財産(地域資源)であることを自覚し、それを活用してより価値の高い地域をつくること」です。



少し堅苦しいことを考えているのかもしれません。
それでも私たちは、この地域に生きる者として、まじめに、プライドを持って、ワインツーリズムを伝えます。


皆さまとお会いできることを楽しみにしております。
どうぞ気をつけてお越しください。
当日受付は8:30くらいからJR甲府駅北口、JR石和駅前でやっています。

笹本貴之/ワインツーリズム・コーディネーター

posted by 笹本貴之 at 00:30| ワインツーリズム

2011年10月24日

「ワインツーリズムやまなし2011」の協力要請

毎年この時期になるとそうですが、11月5日と6日に実施する「ワインツーリズムやまなし2011」の準備で忙しくしています。

先週は、山梨県と各参加自治体の首長に協力要請に行ってきました。

今年の「ワインツーリズム」では、各地区による独自ブログを立ち上げました。
それぞれが主体的に準備をすることが今回の特徴になっていますが、そのブログの中でご報告していますので、以下のリンクをご覧ください。

笛吹地区のブログ
勝沼地区のブログ
塩山地区のブログ
甲府地区のブログ


どうして各首長に挨拶に行き、ワインツーリズム実行委員会の理事になってもらうのか。
行政から補助金を一切もらっていないのに、どうして首長に筋を通すのか。

それは、従来の行政と民間との関係に異議を唱え、新しい行政と民間とのカタチを少しずつでも考えてみたいからです。

補助金を出す側ともらう側、指導する側とされる側という関係性を何とかしたい。
補助金を媒介しない行政と民間との新しい関係性を考えたい。
業界団体に補助金を払えば公平性と民間委託が担保され一安心という常識を覆したい。
補助金の切れ目が活性化イベントの切れ目という依存体質を壊したい。

こんな課題を抱えながら、明るく楽しく「ワインツーリズムやまなし2011」の準備をしています。
当日まであと12日です。どうぞよろしくお願いします。

笹本貴之
posted by 笹本貴之 at 02:11| ワインツーリズム

2011年10月15日

五味醤油の甲州みそ

最近は11月5日・6日に実施する「ワインツーリズムやまなし2011」実施のための準備で、ブログ更新が少なくなっています。

今年はこれまでの実施エリアに加え、笛吹市の一宮エリアと石和御坂八代エリアが仲間入りしました。
そしてこれを機に各地区で独自のブログを持ち、それぞれの準備の進捗具合や日常的魅力などを競うようにアピールしています。

私はそれぞれの地区の組織化を促し、統一的コンセプトで全体をまとめる、コーディネーター役を務めています。
地域の主体となるべき住民が自ら輝くために、私はワインツーリズムに関わる一人一人と深く交流して、彼らと地域の課題とその解決策を議論して、ある方向性を確かめるのです。

そしてその方向性とは、「地域の資源の共有」ということです。

ですから私は、ぶどうやワインのような「何か」を生み出しているわけではありません。
ワインツーリズムとは、それ自体が特別な「何か」ではなく、一つ一つ見てみるとごく当たり前に既にある「何か」、つまりぶどうやワインや食文化や歴史など「地域の資源」の力を住民に自覚させ、それを住民が共有して活用するためのコミュニティづくりそのものだと言えると思っています。

どうぞワインツーリズムの公式サイトで、各地のブログをじっくり読んでください。自ずと特色が読み取れると思います。



さて、今回はその中の「甲府のブログ」を主に担当する五味仁さんについて、ご紹介します。

五味仁さんは、「五味醤油」さんの6代目です。

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名前は「醤油」ですが、いまは醤油はつくっていず、「味噌」をつくっています。

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ここの味噌は「甲州みそ」です。

味噌には麹を使います。そしてその麹は地域によって「米麹」または「麦麹」と決まっています。しかし、甲府ではこの二種類の麹を半々にブレンドした非常に珍しい味噌をつくっています。
それが「甲州みそ」です。

実はワインツーリズムというムーブメントを起こそうと本格的に取り組む直前の2004年5月に、私はこの「甲州みそ」に会いました。
旧城下町を歩こうという企画でたまたま訪れた五味醤油さんで、「甲州みそ」の存在を初めて知ったのです。自らの無知を恥じるとともに、独自の自慢すべき文化があることを誇りに思いました。

そして6年半後の2010年11月、「ワインツーリズム2010」で初めて甲府バスルートを設定したときに、山梨のワインと甲州みそとの連携が実現しました。
私はそのことが非常に嬉しかった。

ワインツーリズム当日のバス停を五味醤油前に置くと、なかば自然発生的に、まるで醗酵するかのように(ワインも味噌も醗酵製品です)、ぐつぐつと発想が浮かんできて、良い空間ができました。

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母屋まで解放していただき、気持ち良い空間に。

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そして「甲州みそ焼きおにぎり」は一日で300個超えの大人気!

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この醗酵がお客さまにも作用したのか、この「甲州みそ」が売れる売れる!

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右手に「甲州ワイン」、左手に「甲州みそ」をぶら下げた人々が、町中をぞろぞろ歩く光景は初めて見ました。
私はこれを「甲府の軌跡」と呼びました。
(例えば県内外各地にあるワインイベントで、みそを並べて黙って売れるでしょうか? 地域全体を五感で楽しむワインツーリズムだから売れるのです。)

五味仁さん、今年はこの五味醤油さんでいったい何を仕掛ける?

ここは甲府バスルート内の「甲府会場」としてますます面白くなります。

どうぞご期待ください。


笹本貴之/ワインツーリズム・コーディネーター
posted by 笹本貴之 at 02:55| ワインツーリズム